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東京地方裁判所 昭和56年(ワ)4659号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【説明】

請求原因の骨子は、次のとおりである。

「1 被告は、土木建築の総合請負を業とする株式会社である。

2 原告と被告とは、昭和五四年八月二〇日原告を注文者として建築工事請負契約を締結した。

3 本件請負契約に関して原告と被告との間に紛争が生じたが、被告は、本件請負契約締結に際して仲裁契約が存したとして昭和五六年三月二六日中央建設工事紛争審査会に仲裁の申立てを行い、右審査会は、この申立てを受理した(昭和五五年仲紛審仲第一六号)。

4 よつて、請求の趣旨記載のとおりの判決を求める。」

被告は抗弁として、右仲裁契約の存在を主張する。

【判旨】

二そこで、本件仲裁契約の成否につき検討するに、本件請負契約に付された四会連合協定工事請負契約約款(以下「本件約款」という。)三〇条(2)の定めの趣旨が民事訴訟上の仲裁契約の成立を目的としたものであることは、その文言の趣旨から明らかであるるところ、民事訴訟法七八六条以下に規定する仲裁契約は、専ら当事者の仲裁付託の合意によつて成立するものであり、この点は、いわゆる約款を活用する形で締結された仲裁契約においても変るところはないと解するのが相当である。

ところで、本件約款三〇条(2)は、「契約書に定める建設工事紛争審査会の仲裁に付する。」と定めているのであるから、本件請負契約の契約書において前出空欄<編注―後記判示参照>が補充されていたならば、その補充行為をもつて当事者間に仲裁付託の合意が存したことを認める有力な支えになるということができる。しかしながら、<証拠>を総合すると、右の定めの趣旨は、仲裁契約の成立そのものを前記空欄の補充によつて完成させようとするものではなく、むしろ、建設業法二五条の九の規定を受けて、当事者の合意により現実に仲裁を行う具体的な建設工事紛争審査会を選択させようとするものであることが認められ(右認定に反する証拠はない。)、結局、それは、建設工事紛争審査会についての合意による管轄(建設業法二五条の九第三項参照)を成立させる余地を与えようとするものにすぎないと解すべきである。そうだとすると、右空欄の補充がないことは、前記のとおりであるが、このことから直ちに仲裁契約の成立が否定されるものではないというべきである。

三そこで、進んで、当事者間の本件請負契約の成立の過程について検討するに、<証拠>を総合すると、次の事実を認めることができる。

本件請負契約に関する原被告間の交渉は、昭和五四年五月頃から開始され、同年七月一一日に代金五〇〇〇万円に相当する部分の工事についてのみ仮契約が締結され、その後、代金総額又は支払条件について両者間に交渉が継続し、最終的に同年八月二〇日に本件請負契約が成立した(このことは、当事者間に争いがない。)。右の交渉には、原告からは原告代表者が、被告からは副部長の玉野とその部下の長谷部がそれぞれ当たり、右契約成立の日の約一か月前に右玉野らは、本件約款の書面を原告代表者に交付した。仮契約後の交渉においては、被告側は契約書の草稿を二回にわたり原告代表者に提示したが、その契約書の草稿は、ほぼB四版の大きさの用紙一枚に全部で七項又は八項にわたる契約条項がタイプで印字されたものであり、その頭書には、「つぎの条項と添付の工事請負契約約款、見積書一冊とにもとづいて、工事請負契約を結ぶ。」と記載されていたほか、いずれも第七項には、「建設工事紛争審査会名」の欄があり、同欄には「   建設工事紛争審査会」と印字されていたが、右空欄部分は、補充されなかつた。

右草稿に基づいて行われた交渉においては、原告代表者は、右草稿を検討し、第八項に記載されていた工期及び契約年月日に関する特約文言について被告会社の玉野らに対してその削除を要求し、その要求を実現させているが、右第七項については、特に削除の要求を行うことがなかつたほか、何らの疑問も述べず、そのため、右玉野らも右第七項については何ら説明を行わなかつた。

原告代表者は、従前、二二の原告の店舗の建設を手がけており、その中には大手の建設業者に工事を請け負わせ、その請負契約に際しては四会連合協定工事請負契約約款を用いた経験を有していた。

原告代表者尋問の結果の内、右認定に反する部分は採用できず、他に右認定に反する証拠はない。

右の事実によれば、原告代表者は、本件請負契約締結の際には本件請負契約に本件約款が付されることを十分理解していたことが認められ、また、本件請負契約の条項及び契約書の分量、原告代表者の右交渉時の行動及び経験からみて、原告代表者が、前記第七項の存在に気づかないまま契約を締結したということは考えられず、原告代表者は、右第七項並びにその根拠となる本件約款三〇条の存在及びその意義について認識していたものと推認するのが相当である。

そうだとすると、原告代表者において、仮に仲裁付託を拒否する意思を有していたならば、右第七項の削除及びそれを通じて右約款三〇条(2)の適用の排除を被告に申し出ることが自然な行動であると考えられるところ、前記認定のとおり、原告代表者は何らそのような行動をとることなく、右第七項の文言及び本件約款三〇条(2)の定めを放置していたのであつて、これらの事情からすると、原告代表者において、仲裁付託の意思を有していたと推認することは妨げられないというべきであり、結局、原告及び被告間に仲裁付託の合意が存したものと認めるのが相当である。

したがつて、他に右仲裁付託の合意の成立を妨げるべき事情のない本件については、原告及び被告の間に本件約款三〇条(2)の文言どおりの仲裁契約が成立しているものと認めるのが相当である。

(慶田康男)

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